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成田名璃子さん「東京すみっこごはん」 [本☆☆☆]


東京すみっこごはん (光文社文庫)

東京すみっこごはん (光文社文庫)




初読みの作家さんです。書店でタイトルに惹かれて読んでみました。
グルメ小説ではなく、心温まる人情小説でした。

「いい味だしてる女の子」「婚活ハンバーグ」「団欒の肉じゃが」「アラ還おやじのパスタ」「楓のレシピノート」の5編が収められています。

商店街の脇道に佇む古ぼけた一軒屋は、年齢も職業も異なる人々が集い、手作りの料理を共に食べる“共同台所”だった。イジメに悩む女子高生、婚活に励むOL、人生を見失ったタイ人、妻への秘密を抱えたアラ還。ワケありの人々が巻き起こすドラマを通して明らかになる“すみっこごはん”の秘密とは!? 美味しい家庭料理と人々の温かな交流が心をときほぐす連作小説!
(出版社HPより)

空家となった元小料理屋を舞台に、空家に集まった人たちがくじ引きで残されたレシピをもとに手料理を振舞います。
一話ごとに変わる語り手はそれぞれに問題を抱えています。

抱えた問題が現代的でシビアで重いとは感じますが、その分だけ物語の終わりにカタルシスを得ることができます。

最後の最後に空家と残されたレシピの謎が明らかになり、思わずじわっとなりました。

ほっこりする読後感です。

川上和人さん「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」 [本☆☆☆]


鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。




小説ではないのですが、なんとも人を食ったようなタイトルに惹かれて読んでみました。
鳥類学者にしておくにはもったいない(失礼)語り口が面白いです。

必要なのは一に体力、二に体力、三、四がなくて、五に体力?! 噴火する火山の溶岩、耳に飛び込む巨大蛾、襲い来るウツボと闘いながら、吸血カラスを発見したのになぜか意気消沈し、空飛ぶカタツムリに想いをはせ、増え続けるネズミ退治に悪戦苦闘する――アウトドア系「鳥類学者」の知られざる毎日は今日も命がけ! 爆笑必至。
(出版社HPより)

作者は小笠原諸島をフィールドワークとする鳥類生態学者です。
噴火したて(?)の西ノ島にも上陸したというからその筋(ってどの筋よ?)の第一人者なのかなと思います。

サブカルをたくさん混ぜ込んだ小ネタ満載、ユーモアたっぷりの文章は下手な作家さんより面白いです。

それだけでなく、キョロちゃんを題材にした分類学や外来生物による生態系の破壊問題、なにより驚くべき鳥の飛翔能力が紹介され、鳥学の入門書としての魅力も満載です。
身近にいる鳥たちですが、知らないことだらけだと気づきました。

惜しいのは、カラー写真付きでないことです。各章の初めにイラストがついているのですが、白黒。(アカガシラカラスバトを「美しい鳥」と紹介しておいて、イラストには「白黒バージョン」と補足説明が ^^;)
豪華版の出版を望みます。

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川端裕人さん「雲の王」 [本☆☆☆]


雲の王 (集英社文庫)

雲の王 (集英社文庫)




気象という大自然を相手にした壮大なファンタジーです。夏に入道雲を見ながら読みたい作品です。(あいにく関東は雨続きですが)
川端さんならではの要素が満載です。

気象台に勤務する美晴は、十代の頃に事故で両親を亡くし、今は息子の楓大と二人暮らし。
行方知れずの兄からの手紙に導かれ、母子はある郷を訪れる。
そこで出会ったのは、天気と深く関わり、美晴の両親のことも知っているらしい郷の住人たち。
美晴たち一族には、不思議な能力があるらしい。
郷から戻った美晴は、ある研究プロジェクトに参加するが……。
一族がもつ能力とは? 彼らが担ってきた役割とは?
「空の一族」をめぐる壮大なサーガ、開幕!

ゲリラ豪雨やスーパー台風、爆弾低気圧といった破壊力のある気象現象が増えていると実感しているだけに、時期を得た作品ではないでしょうか。

人工的に雨を降らせるという科学技術は知っていましたが、台風被害を抑えるために上陸ルートに乗らないように「あえて」台風を発生させたりする研究が行われていることは知りませんでした。

気象という科学的知識や技術を物語の中に落とし込んで、わかりやすく表現するだけでなく、「気象を読む」ことができる一族を登場させることで物語に面白さが生まれるように思いました。
この辺りは川端さんの真骨頂ですね。

強大な自然に対して、ちっぽけな存在である人間が知恵と知識でどう乗り切るか、壮大な物語を堪能しました。

山本兼一さん「花鳥の夢」 [本☆☆☆]


花鳥の夢 (文春文庫)

花鳥の夢 (文春文庫)




安倍龍太郎さんの『等伯』と比べて読んでみると面白いかもしれません。

天才絵師・狩野永徳の恍惚と不安。稀代の名作『洛中洛外図』を描き、時代を席巻した永徳。―あの男は、どうしておれを苛立たせるのか。長谷川等伯への嫉妬に身悶えしながら、画境の極みを目指す。絵師の業を極限まで描く、傑作長編。
(「BOOK」データベースより)

室町時代から始まり多くの門人を抱える狩野派の総帥という立場と、天才絵師として何事にも縛られずに筆を振るいたい衝動との間で苦悶する狩野永徳。
かたや能登から体一つで上京してきて、己の才能のままに躍動的な絵を描く長谷川等伯。
老舗の跡継ぎと、ベンチャー企業の創業者の対比のようだと思いました。

永徳の等伯に対する嫉妬は狩野一門をもって様々な因縁をつけ、嫌がらせに走らせることになるのですが、そこには等伯の妻に対する永徳の想いが隠れているという作者の創作が、永徳の人間らしさを浮かび上がらせているように思います。

それにしても永徳が傾注した作品が安土城や大坂城だったというのは、とても残念です。


安土城のシーンで『火天の城』の主人公の岡部又右衛門が登場します。カメオ出演?

五十嵐貴久さん「南青山骨董通り探偵社」 [本☆☆☆]


南青山骨董通り探偵社 (光文社文庫)

南青山骨董通り探偵社 (光文社文庫)




タイトルからして軽めの探偵ものかな、と思ったら意外とヘビーでした。

大手企業に就職したものの、うだつの上がらない日々に塞ぐ井上雅也。ある日、南青山骨董通り探偵社の社長・金城から突然話しかけられた。「探偵になる気はありませんか?」。雅也は訝しみながらも体験入社をするが、厄介な事件に関わることになり……。個性的なメンバーの活躍が、軽快なテンポと極上のサスペンスで繰り広げられる、ベストセラー作家の新シリーズ始動!
(出版社HPより)

一匹狼タイプが多い探偵ものでは珍しくバラエティに富んだ探偵たちが登場します。

テンポのいい展開と、五十嵐さんらしい軽妙なセリフでページが進むのですが、想像以上に重い展開と探偵たちの陰がしっかりと描かれています。

あっさりミスリードに引っ掛かりました。真犯人に社長と同様に「誰?」と思ってしまいました。まさに作者の思うつぼです(笑)

続編が楽しみです。

北村薫さん「元気でいてよ、R2-D2。」 [本☆☆☆]


元気でいてよ、R2-D2。 (角川文庫)

元気でいてよ、R2-D2。 (角川文庫)




久しぶりに北村さんの作品を手に取ってみたら…

「マスカット・グリーン」「腹中の恐怖」「微塵隠れのあっこちゃん」「三つ、惚れられ」「よいしょ、よいしょ」「元気でいてよ、R2-D2。」「さりさりさり」「ざくろ」「スイッチ」の9編が収められています。

気心のしれた女同士で飲むお酒は、自分を少し素直にしてくれる…そんな中、思い出すのは、取り返しのつかない色んなこと(「元気でいてよ、R2‐D2。」)。産休中の女性編集者の下に突然舞い込んだ、ある大物作家の原稿。彼女は育児に追われながらも、自ら本作りに乗り出すが…(「スイッチ」)。本人ですら気付かない本心がふと顔を出すとき、世界は崩れ出す。人の本質を巧みに描く、書き下ろしを含む9つの物語。
(「BOOK」データベースより)

あの穏やかな語り口で結末がダークなものだと怖さが倍増します。
悪意や無神経さから生まれる恐怖をさりげなく描かれると社会に出ていけないじゃないですか…。

佐藤正午さん「アンダーリポート/ブルー」 [本☆☆☆]


アンダーリポート/ブルー (小学館文庫)

アンダーリポート/ブルー (小学館文庫)




既読ですが、『ブルー』という掌編を追加しての「完全版」という触れ込みに再読してみました。
細かな再発見があって、再読なのにじっくり楽しんでしまいました。

15年前、ある地方都市のマンションで男が撲殺される事件が起こった。凶器は金属バット。死体の第一発見者は被害者の隣人で、いまも地方検察庁に検察事務官として勤める古堀徹だった。事件は未解決のまま月日は流れるが、被害者の一人娘・村里ちあきとの思わぬ再会によって、古堀徹の古い記憶のページがめくれはじめる――。
古堀は事件当時、隣室に暮らすちあきの母親・村里悦子と親しい間柄だった。幼いちあきを預かることも多く、悦子が夫の暴力にさらされていた事実や「もし戒める力がどこにも見つからなければ、いまあなたがやろうとしていることは、あやまちではない」という彼女の人生観に触れる機会もあった。その頃の記憶にはさらにもう一人の女性の存在もあった。女性はある計画について村里悦子を説得したはずだ。「一晩、たった一度だけ、それですべてが終わる」と。
よみがえる記憶を頼りに組み立てたひとつの仮説――交換殺人という荒唐無稽な物語が、まぎれもない現実として目の前に現れる! サスペンスフルな展開に満ちた長編小説『アンダーリポート』に加えて、新たに衝撃的なエンディングが描かれた短編小説『ブルー』を初収録した完全版。
(出版社HPより)

何度でも読み返したくなる、ストーリイにしても文章にしても飽きのこないのが佐藤さんの小説だと思います。(お気に入りは『Y』です)
読み返したくなる、それに耐え得る作品に、更にもう一つの可能性を提示する短編を加えるって、どんだけ凄いんだ。

『ブルー』は衝撃的でした。
『アンダーリポート』がループ構造を持っているのに対して、『ブルー』は一応の結末を示していると思うのですが、謎は深まるばかりでした。
「女たち」が関与しているのは明らかなのですが、そこまでリスクを冒す必要があるのか。リスクを重ねることは事実が露呈する可能性も高まるはずなのに、なぜ踏み込むのか。

迷宮の正午ワールドに引き込まれてしまう作品です。

津村記久子さん「とにかくうちに帰ります」 [本☆☆☆]


とにかくうちに帰ります (新潮文庫)

とにかくうちに帰ります (新潮文庫)




勤め人あるあるです。ささやかな出来事を濾しとる手わざは職人芸のようです。

「職場の作法」に収録された「ブラックボックス」「ハラスメント、ネグレクト」「ブラックホール」「小規模なパンデミック」の4つの掌編と、「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」「
とにかくうちに帰ります」の2つの短編という不思議な構成です。

うちに帰りたい。切ないぐらいに、恋をするように、うちに帰りたい――。職場のおじさんに文房具を返してもらえない時。微妙な成績のフィギュアスケート選手を応援する時。そして、豪雨で交通手段を失った日、長い長い橋をわたって家に向かう時。それぞれの瞬間がはらむ悲哀と矜持、小さなぶつかり合いと結びつきを丹念に綴って、働き・悩み・歩き続ける人の共感を呼びさます六篇。
(出版社HPより)

こういう人、いるよね~、とか。荒天の中、帰宅する破目になった、とか。見落としがちななにげない題材を取り上げて、フィクションに落とし込む手腕がすごいと思います。
だって、あまりにリアリティを持たせてしまったら、腹立ちまぎれにそこらのものを破壊してしまうかもしれませんので。

人の文具などを持って行ってしまう人。げほごほ言いながら出社する人。
どこの職場にもいそうな人を優れた観察眼で描き出していると思います。

なかでもお気に入りは表題作です。
台風や爆弾低気圧のなか、なぜ人は帰宅しようとするんでしょうか。会社にいればそこそこ快適なのに。そういう自分も爆弾低気圧で軒並み電車が運休するなか、横殴りの風雨のなかをいつもの3倍の時間をかけて帰宅した経験があります。
自分の経験に置き換えながら読み進めて、最後の一行で腑に落ちました。
すばらしい。

おかしみの中に悲しみがあります。けれど悲嘆するものではなく、ほっとしたときに感じる悲しみのようなものを感じました。

何度でも読み返したい一冊です。

初野晴さん「千年ジュリエット」 [本☆☆☆]


千年ジュリエット (角川文庫)

千年ジュリエット (角川文庫)




「ハルチカ」シリーズ第4弾です。

「イントロダクション」「エデンの谷」「失踪ヘビーロッカー」「決闘戯曲」「千年ジュリエツト」が収録されています。

清水南高校、文化祭間近、晴れの舞台を前に、吹奏楽部の元気少女・穂村チカと、残念系美少年の上条ハルタも、練習に力が入る。そんな中、チカとハルタの憧れのひと、草壁先生に女性の来客が。奇抜な恰好だが音楽センスは抜群な彼女と、先生が共有する謎とは?(「エデンの谷」)ほか、文化祭で巻き起こる、笑って泣ける事件の数々。頭脳派ハルタと行動派チカは謎を解けるのか?青春ミステリの必読書、“ハルチカ”シリーズ第4弾!
(「BOOK」データベースより)

吹奏楽の甲子園と呼ばれる普門館(全日本吹奏楽コンクール)出場を目指して部員集めと練習に明け暮れるチカとハルタの部活動から離れて、清水南高校の文化祭で起こる騒動を描いています。

文化祭ということで、それまでに登場した変人(!)が総出演です。
中でも生徒会長の日野原の傍若無人っぷりには笑いました。
ハードロックとヘヴィメタルの演奏をしながら「アメリカ民謡クラブ(通称、アメ民)」と称す、世を忍ぶ仮の姿的な同好会は、母校でもありました。

コメディタッチに見過ごされがちですが、しっかりとした学園ミステリでもあります。

続編が楽しみです。


映画化されたようです。観ていませんが、原作とはほど遠いような印象です。初野さんはこれでOKしたんでしょうか?
http://haruchika-movie.jp/

安部龍太郎さん「等伯」 [本☆☆☆]


等伯 上 (文春文庫)

等伯 上 (文春文庫)




等伯 下 (文春文庫)

等伯 下 (文春文庫)

  • 作者: 安部 龍太郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/09/02
  • メディア: 文庫



直木賞受賞作です。日本経済新聞で連載していたのを読んではいましたが、やはり通しで読むと違いますね。

能登・七尾で武士の家に生まれた信春は、長谷川家の養子となり絵仏師として名声を得ていた。都に出て天下一の絵師になるという野望を持っていた彼だが、主家の内紛に巻き込まれて養父母を失い、妻子とともに故郷を追われる。戦国の世に翻弄されながらも、己の信念を貫かんとした絵師・等伯の誕生を描く。
敵対していた信長が没して不安から解放された等伯だが、その後も永徳を頭とする狩野派との対立、心の師・千利休の自刃、息子の死など、たび重なる悲劇に見舞われる。窮地に立たされながら、それでも己の道を信じた彼が、最後にたどりついた境地とは―。直木賞受賞、長谷川等伯の生涯を骨太に描いた傑作長編。
(「BOOK」データベースより)

能登を追われるようにして京都に辿りついた等伯こと長谷川信春が絵師として頭角を現し、最後には一派を構えるまでの人生が描かれています。

困窮の中からのし上がっていく姿と、大家になってからも続く波乱万丈の人生は読んでいて飽きないです。その人生がどうだったのかを知らないだけに猶更です。

天才絵師の情熱と、多くの肉親を見送った後悔と苦悩は読んでいて重くのしかかってきます。安部さんの筆力ならでは。

ライバル関係にある狩野永徳率いる狩野派との軋轢は「そこまでしなくても」というくらい狩野派がヒール役に描かれているとともに、狩野永徳を凡庸な絵師として表現していて、貶め方がハンパないです。

非常に読み応えのある作品です。

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