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佐藤正午さん「身の上話」 [本☆☆☆]


身の上話 (光文社文庫)

身の上話 (光文社文庫)




不思議な物語です。
ある女性の行動を淡々と描いているのに飽きさせない。佐藤さんの巧さなんでしょう。

23歳のミチルは地方都市の老舗書店の書店員です。結婚を意識する恋人がいるのですが、東京から出張に来ていた出版社の営業員の豊島との不倫という小さな秘密を持っていました。
ある日、就業時間中に歯医者に行くという理由で職場を抜け出して、東京へ戻る豊島を見送りにいく算段を立てます。バスターミナルで頼まれものの宝くじを買ったミチルは、豊島に付いて、着の身着のままで東京へ出てきてしまいます。
数日後に地元に戻るつもりだったミチルを動かしたのは、職場の上司の対応や両親の反応でした。直情的に反発したミチルは東京に居残ってしまいます。それを支えたのは宝くじでした。高額当選していたのです。
その日から運命に流され翻弄される日々が始まります。

自分の身に照らし合わせたら「ありえへん」という行き当たりばったりのミチルの行動ですが、他人から「土手の柳は風まかせ」と評されるミチルの性格から展開する物語は「そんなバカな」とは言い切れず「そんなもんかな」と納得してしまいます。そこが佐藤さんの巧みさだと思います。
また、ミチルのあまりに自分に都合のいい考え方というのは読んでいて本当に辟易したのですが、それも物語の展開に必要な要素だったとしたら作者にうまく乗せられていたんでしょうね。

ミチルが次にどうするのか、どんな運命が待ち受けるのか、気になってページを繰りたくなります。
そうすると次第に明らかになってくる人間関係や各人の思惑がいやらしく、人間の怖さを覚えてしまいます。
それでも中盤までミチルの力の抜けた逃避行だったはずが、まさか一気にサスペンスの展開をみせるとは想像もしていませんでしたが。

なかでもミチルの後輩の竹井輝夫という存在は当初は気のいい人物だったはずなのですが、いつの間にか物語の展開を握る重要な人物になっていました。彼の行動の背景にある思いはある程度理解できなくもないのですが、そこから導き出される行動や目的というものは最後まで理解できませんでした。

「身の上話」の語り手が誰なのか最初から最後まで違和感を持っていたのですが、終盤でまさかそんな展開とミチルの行く末が待っているとは思いもよりませんでした。

アンダーリポート』でもそうだったんですが、計算された物語を読むというのは堪らなく楽しいものだと思い知らされます。

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